福祉施設の開業に向けて物件を探していると、家賃の安さや立地、室内の広さに目が向きがちです。
しかし、店舗や事務所として問題なく使われてきた建物でも、デイサービス、児童発達支援、放課後等デイサービス、就労継続支援B型、生活介護、障害者グループホームなどの福祉施設として使用できるとは限りません。
建築基準法、消防法、自治体の条例、各福祉サービスの設備基準を満たせなければ、指定申請が進まない、追加工事費が膨らむ、予定日に開業できないといった問題につながります。
大切なのは「内装工事をすれば使えそうか」ではなく、契約前の段階で適法に開業できる物件かを確認することです。
本記事では、福祉施設の物件選びで確認すべきポイントと、契約後の失敗を防ぐ方法を、建築・用途変更・施工の視点から解説します。
■福祉施設の物件選びを契約前に行うべき理由

福祉施設には、利用者が安全に過ごし、災害時に適切に避難できる建物が求められます。そのため、一般的なオフィスや店舗とは、必要な部屋、避難経路、消防設備、バリアフリーへの配慮などが異なります。
家賃や内装の状態だけを見て契約すると、消防設備を追加できない、必要な床面積を確保できない、オーナーから改修工事の許可を得られないといった問題が起こる可能性があります。
契約してから用途変更や消防設備の問題が判明すると、別の物件に変更したくても違約金や原状回復費が発生するかもしれません。候補物件を見つけた時点で、行政、不動産会社、建築士などに確認し、必要な工事と開業までの期間を整理しましょう。
■福祉施設の物件選びで確認したい7つのポイント

1.用途地域や立地条件に問題がないか
最初に、予定している福祉サービスをその場所で開業できるか確認します。用途地域だけでなく、市街化調整区域、地区計画、自治体独自の基準が関係する場合があります。
特に市街化調整区域では、施設の開設に許可や事前協議が必要となり、計画内容によっては開業が難しい可能性もあります。物件を申し込む前に、自治体の都市計画や開発許可を担当する部署へ確認しましょう。
また、送迎を行うデイサービスや放課後等デイサービスでは、駐車場や安全な乗降場所も重要です。駅からの距離、職員の通勤、近隣への騒音、利用者が使える公園や活動場所など、開業後の運営も想定して判断する必要があります。
2.建築確認上の現在用途を確認する
物件情報に「事務所」「店舗」「住宅」と書かれていても、それだけで建築確認上の用途を判断することはできません。登記上の種類と、建築基準法上の用途が一致していない場合もあります。
事務所から児童福祉施設等、住宅から福祉施設、寄宿舎から老人ホームなど、変更前と変更後の用途によって必要な手続きや工事が変わります。募集図面だけで決めず、建築確認申請図書や台帳記載事項証明書などを確認することが重要です。
CABONでは、事務所から児童発達支援施設への用途変更や、寄宿舎から老人ホームへの用途変更などを手がけています。元の用途や建物の状況によって対応が異なるため、物件ごとの調査が欠かせません。
3.用途変更の確認申請が必要か
既存建物を別の使い方に変える場合、用途や規模によって用途変更の確認申請が必要になります。
2019年に施行された建築基準法改正により、用途変更後に特殊建築物として使用する部分が200㎡以下の場合、原則として用途変更に伴う建築確認の手続きは不要になりました。
ただし、「200㎡以下なら何も確認しなくてよい」という意味ではありません。
確認申請が不要でも、建築基準法や消防法への適合は引き続き必要です。防火、避難、排煙、採光、換気などの基準に適合させるため、改修工事が必要になることもあります。
また、面積の捉え方や施設の用途判断が自治体によって異なる可能性もあります。管轄する建築指導課や建築士へ事前に確認しましょう。
4.確認済証・検査済証・図面が残っているか
物件契約前に確認したい主な資料は、次のとおりです。
・確認済証
・検査済証
・建築確認申請図
・竣工図
・増築や改修時の図面
・台帳記載事項証明書
これらの資料があると、建物がどのような計画で建てられ、完了検査を受けたかを確認しやすくなります。
検査済証がないからといって、必ず福祉施設にできないわけではありません。ただし、現況調査、法適合状況の確認、図面の復元、是正工事などが必要となり、費用と期間が増える可能性があります。
特に古い建物や、増改築を繰り返している物件は注意が必要です。CABONでは、既存資料の確認後に机上調査と現地調査を行い、建物の適法性や必要設備を確認しています。
5.必要面積と部屋を確保できるか
福祉施設では、サービスの種類や定員に応じて、次のようなスペースが必要になります。
・訓練や作業を行う部屋
・相談室
・静養室
・事務室
・洗面所
・トイレ
・食堂
・浴室
・収納スペース
注意したいのは、物件全体の面積と、設備基準の計算に使える有効面積が同じとは限らないことです。
廊下、柱、収納、トイレ、設備スペース、間仕切りを考慮すると、想定していた定員を確保できない場合があります。放課後等デイサービスや児童発達支援などでは、自治体によって必要面積の考え方が異なることもあるため、間取りを確定する前に指定権者へ確認しましょう。
6.避難経路と消防設備に問題がないか
福祉施設の消防法上の用途区分は、通所・宿泊の有無、利用者の状態や避難能力などによって異なります。施設の用途区分や建物の規模に応じて、次のような消防用設備が必要になる可能性があります。
・消火器
・誘導灯
・自動火災報知設備
・火災通報装置
・スプリンクラー
・避難器具
・非常警報設備
福祉施設は、利用形態や避難の難しさなどを踏まえて消防法上の区分が決められます。同じ福祉事業であっても、通所施設と宿泊・入所施設では必要な対策が異なる場合があります。
また、テナントの一部を福祉施設にすることで、建物全体の消防設備に影響するケースもあります。地階や上層階、直通階段が少ない物件、避難経路が一つしかない物件は、追加工事が大きくなりやすいため注意が必要です。
所轄消防署へ図面を持参し、契約前に必要設備や届出について相談しましょう。
7.オーナーから工事の承諾を得られるか
福祉施設の内装工事では、次のような工事が必要になることがあります。
・間仕切りの変更
・給排水設備の増設
・トイレや洗面所の改修
・スロープや手すりの設置
・消防設備の追加
・看板や外部設備の設置
・壁や床への配管工事
賃貸物件では、共用部や建物の構造部分を自由に工事できません。用途変更への協力、申請に必要な書類の提供、工事区分、指定工事業者、原状回復の範囲を契約前に確認してください。
CABONでも、法令上必要な工事についてオーナーの承諾が得られず、契約を見送ったケースがあります。「福祉施設として開業できない場合に契約を解除できるか」など、停止条件や特約を不動産会社へ相談しておくことも大切です。
■追加工事費が高くなりやすい物件の特徴

家賃が安くても、改修費を含めると割高になる物件があります。
特に注意したいのは、入口や室内に大きな段差がある、トイレが狭い、水回りから離れた位置に洗面所や浴室を設ける、電気容量が不足している、室外機の設置場所がない、避難経路を増やせないといったケースです。
防火区画、排煙、消防設備、給排水、バリアフリー、耐震補強、エレベーターなどの工事が重なると、当初予算を大きく超える可能性があります。
物件の家賃だけでなく、次の費用を含めた総額で比較しましょう。
・物件取得費
・法令調査費
・設計費
・用途変更などの申請費
・内装工事費
・消防設備工事費
・給排水や電気設備工事費
■施設の種類によって物件選びの基準は異なる
デイサービスでは、送迎車の動線、機能訓練室、静養室、浴室、車いす利用を想定した出入口などが重要です。
児童発達支援や放課後等デイサービスでは、指導訓練室の面積、相談室、飛び出し・転落防止、防音、送迎時の安全性も確認します。
就労継続支援B型や生活介護では、作業内容に応じた電源、搬入経路、騒音・臭気、洗面設備などが必要です。
障害者グループホームや老人ホームなど、宿泊・入所を伴う施設では、居室、夜間の避難、階段、消防設備、職員動線の確認がより重要になります。
「以前も福祉施設だった居抜き物件」でも安心とは限りません。開業するサービス、定員、建物全体の用途、現在の法令基準が異なれば、追加の設計や工事が必要です。
■物件契約前の調査はどのように進める?

まず、開業する福祉サービス、想定定員、入浴・調理・送迎の有無、開業希望日を整理します。
次に、募集図面、確認済証、検査済証、既存図面、建物概要を集め、建築・消防・設備基準の観点から机上調査を行います。
候補を絞ったら、現地で次の項目を確認します。
・室内の実寸
・出入口や廊下の幅
・段差や階段
・避難経路
・給排水設備
・電気容量
・空調設備
・消防設備
・増改築の有無
そのうえで、必要な設計、用途変更、消防設備、内装工事と概算費用、行政協議を含めたスケジュールを整理してから契約へ進むのが安全です。
■福祉施設の物件選びに関するよくある質問

・200㎡以下なら用途変更の相談は不要ですか?
確認申請が不要になる場合でも、建築基準法や消防法への適合確認は必要です。自治体や計画内容によって判断が異なるため、契約前に専門家と行政へ確認してください。
・検査済証がない物件は契約しないほうがよいですか?
一律に使用できないとは限りませんが、追加調査や是正工事が必要になる可能性があります。開業時期と予算に影響するため、建築士による調査結果を確認してから契約を判断しましょう。
・2階以上の物件でも福祉施設を開業できますか?
開業できる場合はあります。ただし、階段、エレベーター、避難経路、消防設備、利用者の身体状況などを踏まえた検討が必要です。
・福祉施設の居抜き物件なら工事費を抑えられますか?
既存設備を活用できれば費用を抑えられる可能性があります。ただし、前の施設とサービスの種類や定員が異なる場合は、間取り変更や消防設備工事が必要になることがあります。
■まとめ|福祉施設として使えるかを契約前に確認しよう

福祉施設の物件選びでは、立地や家賃だけでなく、用途地域、現在用途、用途変更、検査済証、必要面積、避難経路、消防設備、オーナーの工事承諾まで確認する必要があります。
株式会社CABONでは、候補物件の法令調査から用途変更、設計、内装・設備工事まで一貫して対応しています。事務所から児童発達支援施設への用途変更や、寄宿舎から老人ホームへの用途変更など、福祉施設に関する設計・施工実績もあります。
「この物件で福祉施設を開業できるか知りたい」「契約前に必要な工事費を確認したい」という段階でもご相談ください。募集図面や物件資料をもとに、開業までに必要な調査、用途変更、設計、施工の内容を整理します。
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